G7サミットの役割はメンバー国の政策協調の方針決定である。もちろん自分たちだけでできることは限られているから,関係国や国際機関などに働きかけて実施するものも多い。その数は膨大で,多様な政策領域に及ぶ。広島サミットの場合を見てみよう。
まず,最重要文書の「コミュニケ(首脳宣言)」には,過去最多となる約700の公約(コミットメント)が盛り込まれた(トロント大学サミット研究グループまとめ)。加えて,首脳会合は5つの個別声明と4つの関連文書を発表した。そこに示された指針も含めると合意事項は膨大な数となる。

広島サミットのコミュニケ(首脳宣言)には,過去最多となる約700の公約(コミットメント)が盛り込まれた!
言及された政策領域は多岐にわたる。「コミュニケ」の小見出し,ならびにパラグラフ番号ごとの話題をざっくり整理すると,こんな感じになる。
前文:1.結束の決意・他の主体との協働,2.共通の価値,3.ゲスト国の参加歓迎。
ウクライナ:4.ロシアによる侵略戦争への非難とウクライナ支援。
軍縮・不拡散:5.核なき世界の実現や軍事物資の輸出管理等。
インド太平洋:6.自由で開かれたインド太平洋の重要性や関係地域機構との連携。
世界経済・金融,持続可能な開発:7.マクロ経済政策,8.金融システムの強靭化,9.国際課税制度,10.開発支援,11.SDGs,12.低中所得国の債務脆弱性,13.国際開発金融機関改革,14.低中所得国へのインフラ投資,15.賄賂防止,16.人道危機,17.都市の変革。
気候:18.温室効果ガスのネット排出ゼロ,19.グリーン・トランスフォーメーションによる経済の変革,20.気候変動に脆弱なグループへの支援,21.サステナブル・ファイナンス。
環境:22.ネイチャーポジティブ経済への転換,23.違法漁業・海洋汚染対策,24.生物多様性。
エネルギー:25.クリーン・エネルギーへの移行,26.化石燃料からのフェーズアウトと原子力発電。
クリーン・エネルギー経済:27.クリーン・エネルギーのサプライチェーン構築。
経済的強靱性及び経済安全保障:28.経済的威圧等への対応,29.重要鉱物のサプライチェーンの構築。
貿易:30.世界貿易体制。
食料安全保障:31.グローバルな食料安全保障,32.世界の食料サプライチェーンの強化。
保健:33.世界保健の制度と資金,34.ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC),35.感染症危機対応医薬品等。
労働:36.人への投資と包摂的な労働市場。
教育:37.質の高い教育。
デジタル:38.責任あるAIの推進,39.信頼性のある自由なデータ流通。
科学技術:40.研究協力,41.宇宙空間
ジェンダー:42.女性・LGBTQIA+の人々の参加,43.ハラスメント・虐待の撲滅,44.ジェンダー主流化。
人権,難民,移住及び民主主義:45.難民,46.移民,47.偽情報への対処。
テロ,組織犯罪,腐敗等:48.テロリズム・過激主義・国際組織犯罪等,49.腐敗対策・法制度整備支援。
地域情勢:50.外交・安全保障での結束,51.中国,52.南シナ海,53.北朝鮮,54.ミャンマー,55.アフガニスタン,56イランの核計画.,57.イランの武器輸出,58.イスラエルとパレスチナ,59.シリア,60.イエメン,61.中央アジア諸国,62.、アフリカ諸国,63.スーダン,64.中南米,65.コソボとセルビア,66.G7のエンゲージメント・グループとの交流。
この中に,さらに具体的な措置がいろいろと書き込まれている。自動車のEV化をいつまでに進めるか,次のパンデミックに備えて世界保健機関(WHO)をどう改革しておくべきか,などといった話だ。

サミットで決定される約束=コミットメントは,驚くほど多様な政策領域に及んでいる!
一方,個別声明が取り上げたのは,ウクライナ,核軍縮,経済的強靱性及び経済安全保障,クリーン・エネルギー,食料安全保障の5つである。それぞれコミュニケ本文に概略を載せ,詳細を別文書にした形になっている。その政策分野を重視していることを明瞭に示す効果もある。
これほど多くのことを首脳会合で決めるには,関係閣僚会合などであらかじめ議論を積み重ね,下準備をしっかりしておく必要がある。首脳会合はいわばそうした事前準備の確認作業と言ってよい。
膨大な約束をしても守れるのか,疑問を抱く人も多いことだろう。だが,ほかの政治的約束と違い,各国の首脳がほかの首脳たちを前に約束し,しかも翌年も顔を合わせることが想定されるのがサミットの特徴である。他の首脳たちの前で「わが国はちゃんとやっている」と言わなければならないわけだから,閣僚や官僚たちを叱咤激励して,なんとか1年のうちに成果を上げようとするだろう。
膨大で多様な約束を盛り込んだ文書は,意外にもちゃんと影響力を持っていると考えるべきなのだ。
