2023年の広島サミットは,広島市南区宇品町(宇品島)にあるグランドプリンスホテル広島で開催された。人口が100万を超える都市でのサミット開催は,近年においては例外的である。
1975年に始まったサミットは,第1回こそ首脳たちが自由に語り合える雰囲気を重視してパリ郊外のランブイエの古城で開催されたが,まもなくロンドンや東京といった首都や首都近郊,あるいは国内第2・第3の都市が開催地に選ばれるようになった。
開催地の選考基準が変わったのは2000年の九州沖縄サミット(第26回)の成功によるものである。前年のケルン・サミット(ドイツ)で会議場が市民運動に取り囲まれたことから,日本政府は隔絶した場所(名護市の部瀬名岬)に会議場を建設することとした。言うまでもなく,沖縄に米軍基地問題があることを強く意識した政治的決定であった。
翌2001年のジェノヴァ・サミット(イタリア)ではデモ中の市民から死傷者が出た。さらに同年9月にはアメリカで同時多発テロが発生した。これを受けてカナダは2002年のサミット開催地をケベック市からロッキー山脈にある小さなリゾート地カナナスキスに変更した。これ以降,沖縄が手本となったリトリート(隠れ家)開催方式が踏襲されてきた。

リトリート(隠れ家)方式は沖縄サミットがお手本!
これまで日本で開催されたサミットは,東京で3回(1979年,1986年,1993年)とリトリート方式で3回(2000年の九州沖縄サミット,2008年の北海道洞爺湖サミット,2016年の伊勢志摩サミット)の計6回である(以下,略称利用)。
都道府県庁所在地や最も近い100万都市からの距離を見ると,沖縄サミットでは約60キロ(会場が置かれた名護市部瀬名岬から那覇市まで),洞爺湖サミットでは約150キロ(札幌市まで),そして伊勢志摩サミットでは三重県庁まで70キロ,愛知県庁まで160キロである。
一方,広島サミットの開催地は100万都市である広島市内にあり,ホテルのある宇品島は広島市中心街から7キロ程度しか離れていない。およそ20年に及ぶリトリート方式の歴史の中ではきわめて例外的である。
もちろん,宇品島はもともと島なのだから,行き来ができる橋(道路)をしっかり管理すれば,リトリート的にはなる。周りが海なので管理しやすいという点では,沖縄サミットや伊勢志摩サミットのやり方を踏襲している(洞爺湖サミットは山頂のホテルで開催)。その点では,リトリートの趣がないわけではない。


とはいえ,島にあるホテルは23階建てのグランドプリンスホテル広島だけで,明らかに客室数が足りない。同ホテルの公式ホームページによると510室(1259名宿泊可)で,うちスイートルームは8室だけである。メインバンケットホールは2000人が利用可能とされていることから,会議場としての不足はないのだろう。しかし,招待される途上国首脳と国際機関首脳も含めると,サミットに参加する首脳クラスは25人ほどになる。それぞれが側近や警備などを随行するわけだから,1つのホテルで一手にまかなうのはむずかしい。
実際,アメリカのバイデン大統領は,宇品島ではなく街中のヒルトンホテルに宿泊し,会議場までいわば車通勤した。ゲスト国の首脳などは,多くが当然のように市の中心部にある高級ホテルに宿泊した。そのため車列が通過するたびに道路は止められた。
これはすなわち,中心部も含めて広島市がサミット実質的な開催地になったということである。日本ではテロや過激なデモなどによる警備上の問題が少ないのかもしれない。だが,それにしても100万都市の真ん中にこれだけ多くの要人を集めて会合を行ったのだから,サミットの歴史においても特筆すべき出来事といえる。
これをなんと呼ぶべきか。3方を海に囲まれた「島」で会合は行われたのだから,隠れ家(リトリート)のような場所で首脳たちがくつろいで語りあうという従来の慣例を守ってはいる。とはいえ,都市部との近接とその活用状況を見れば,完全に隔絶された場所でもない。新たな開催方式として「シティ・リトリート」とでも名づけるのがよいのではないか。

広島サミットにより「シティ・リトリート」という開催地選択基準ができた!
いずれにしても,この前例を踏まえれば,日本での次回G7の開催地は,大都市に近いリゾートでもまったくかまわない,ということになる。それに,2019年のG20大阪サミットは,たしかにG7より少ない1泊2日の日程で実施されたとはいえ,大都市のど真ん中で行われた。次のG7サミットはまだ先の話だが,「それなら」と名乗りを上げる街が多く出そうな予感がしてくる。
