広島サミットでは核軍縮の文書化が実現!

2023年の広島サミットでは,この街を選挙区とする岸田首相の「理想主義的な思い」と「現実主義的な政治戦略」が結実した。このサミットは,未来に向けた理想を掲げながらも,したたかで現実的な外交を進めていくとした岸田首相の「新時代リアリズム外交」の手法の典型例となるのだろう。

唯一の戦争被爆国である日本は,従来から核不拡散・核軍縮を目指した政治・外交を積み重ねてきた。だが今,原爆が使用された場合の悲劇は,世界の多くの人たちにとって実感を伴って語り継がれてはいない。核不拡散・核軍縮が進まないどころか,ロシアによる核兵器の使用という危険を前に,改めて理想の実現に向けた努力を約束した広島サミットは,世界の人びとに核兵器について考える機会をもたらしたにちがいない。

G7の首脳たちが原爆ドームを背景にした写真は,世界に「Hiroshima」がどういう街かを思いおこさせ,核不拡散・核軍縮の実現を願う世論を喚起したはずだ。そうだとすれば,日本政府の演出は理想の実現に向けたリアルな政治戦略と評価できる。もしロシアに核兵器の使用を思いとどまらせる効果があったとすれば,なおのことだ。

G7の首脳たちが原爆ドームを背景にした写真は,世界中の人に「Hiroshima」がどういう街かを思いおこさせ,核不拡散・核軍縮の実現を願う世論を喚起した!

広島サミットでは,コミュニケ(首脳宣言)の前文に「全ての者にとっての安全が損なわれない形での核兵器のない世界という究極の目標に向けて,軍縮・不拡散の取組を強化する」ことが掲げられた。そして本文においては,核兵器のみならず,生物兵器や化学兵器の軍縮や軍事物資・技術の管理強化が約束された。

またコミュニケとは別に,G7としては初の核軍縮文書となる「核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン」も発表された。冒頭に「全ての者にとっての安全が損なわれない形での核兵器のない世界の実現に向けた我々のコミットメントを再確認する」ことを掲げ,コミュニケよりも明瞭に「核なき世界」の実現をG7の公約化した。

「核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン」はG7による初の核軍縮文書!

また「広島ビジョン」は,「核戦争に勝者はなく,核戦争は決して戦われてはならないことを確認する」と述べ,ロシアに対し「核兵器の使用の威嚇,ましてや核兵器のいかなる使用も許されない」とのメッセージを送った。

一方で「広島ビジョン」は,参加国の核保有について,他国に核兵器が存在する以上,防衛目的のために役割を果たすとして容認し,核兵器の禁止や先制不使用を宣言しなかった。その点では,核廃絶への道のりを具体化させる文書にはなっていない。不十分さを指摘する声が出るのも当然だろう。

とはいえ,前向きな具体的措置が盛り込まれなかったわけではない。核保有国に核兵器の情報を公開させることでリスクの低減を図る「核兵器の透明性」について,米英仏が率先して実施している点を評価し,これをロシアや中国などにも求めていくとした。また,核兵器用核分裂性物質生産禁止条約や包括的核実験禁止条約(CTBT)といった国際条約の締結・実施をうながしていくことも約束された。

「核兵器の透明性」は核兵器の情報公開により核戦争のリスクを低減させる試み!

文書の最後には,「世界中の他の指導者,若者及び人々が,広島及び長崎を訪問することを促す」と書き込まれた。広島でのサミット開催で,広島への関心が高まり,来訪して被爆の実相を目にする人が増えれば,それはそれで核軍縮につながるリアルに有益な日本の外交戦略だったと言ってよいだろう。